仙台高等裁判所 昭和22年(ナ)11号 判決 1948年7月30日
原告
津田昊
原告
阿部八郞
外七名
被告
宮城縣選擧管理委員會
主文
原告津田の請求を棄却する。
昭和二十二年四月三十日に行われた宮城縣牡鹿郡渡波町會議員選擧に關し、原告津田を除く原告等の訴願に對し、同年九月十二日附被告のした裁決中、同原告等の異議に對し、渡波町選擧管理委員會がした決定を取消した部分を除き、其の餘の裁決を取消す。
右選擧における當選人木村喜太郞、藤龜治、津田昊等三名の當選を無効とする。
訴訟費用中、原告津田と被告との間に生じた部分は原告津田の負擔とし、其の他の原告等と被原との間に生じた部分は之を三分し、其の一を原告、其の二を被告の負擔とする。
請求の趣旨
原告津田は「主文第二項記載の裁決を取消す。訴訟費用は被告の負擔とする。」。
其の他原告等は「主文第二項記載の裁決を取消す。昭和二十二年四月三十日施行された牡鹿郡渡波町會議員選擧における當選人木村喜太郞、藤龜治、津田昊等の當選を無効とする。訴訟費用は被告の負擔とする。」
事實(省略)
理由
昭和二十二年四月三十日渡波町會議員選擧が施行せられ、原告等が何れも立候補し、その結果各候補者の得票數、當選及び落選が別表の通りであつて、原告津田は當選し、他の原告等は何れも落選したこと。原告津田を除く原告等が、同年五月十三日同町選擧管理委員會に對し右選擧に關し異議を申立て、同日二十日同委員會は之を却下し、同原告等は更に同月二十二日被告に對し訴願したところ、被告は同年九月十二日附右訴願に對し、「右選擧を無効とす。但當選者津田昊(原告津田)の外はその當選を失わない」との裁決をなし、その裁決書が原告津田には同月二十七日、その他の原告等には同月二十六日に交付されたことは、何れも本件當事者間に爭がない。
原告津田は、右訴願は選擧が法規に違反して行われたことを理由とし、選擧の無効を主張したものであつたのに、被告が當選の効力に關してまでも判斷し、原告津田の當選無効を宣言したのは違法であると主張するが、地方自治法第六十七條(舊町村制第三十二條)の規定は投票の無効を主張してする爭訟には適用ないことは所論の通りであるけれども、成立に爭のない甲第一號證によれば、原告津田以外の原告等の被告に對する訴願申立理由の中には、投票の無効を主張して爭う部分があることが明かであつて、かように投票の効力を爭うことは、當選爭訟の理由とはなつても選擧爭訟の理由とはならないものと解するのが正當であるのに、被告のした裁定は、右投票の効力を爭う部分も選擧爭訟の理由となるものとして取扱つていることが明かで、この點は從來の取扱にならつたものと推測されるが、その當を得ないものといわなければならない、しかしながら、これは單に取扱いの形式にすぎず、その判斷した實質は右投票の有効無効の點であり、その投票が無効であることによつて當選の結果に影響を及ぼす虞のある候補者が何人かということであり、裁定も右の虞のある候補者の當選丈を無効と宣言した結果となつたのであるから、形式上選擧爭訟として選擧の無効を宣言しながら、當然當選爭訟の場合と同じ實質上の結果を得ているのである。以上の理由により、右裁定が當選爭訟として取扱うべきを選擧訴訟として取扱つたという理由だけでは、右裁定を取消す實質的の必要はない。況や原告津田は右訴願を選擧爭訟として取扱つた被告の態度を是認しつつ當選の有効無効の判斷をしたことがいけないと非難するのであるから、この主張は採用できない。
右選擧において選擧人笹原花子、菊地養一につき代理投票がされたこと及び選擧人龜山長吉、阿部ふじゑ、岩井辰三郞、雁部ももよ、雁部はる、龜山いくよ、色川はつ、佐藤辰治郞につき同人等名義の投票がされていることは、原告津田を除く他の原告等と被告との間において爭のないことと、當裁判所の眞正に成立したものと認める乙第一、二號證、成立に爭がない乙第三號證、その他本件口頭辯論の全趣旨に徴し之を認めることができる。而して(イ)證人阿部かのゑの證言によれば、右阿部ふじゑは前記選擧當日投票しなかつたことが認められ、證人岩井正子の證言によれば、右岩井辰三郞も亦當日投票しなかつたことが認められる。そしてこれ等の事實と前記阿部ふじゑ、岩井辰三郞名義の投票がされている事實とを對照して考えると、何人かが右兩名の名義で投票をしたものと認めざるを得ない。(ロ) 證人雁部敬吉の證言と、前記色川はつ、龜山いくよ、雁部ももよ、雁部はる名義の投票がされている事實とを綜合すれば、右四名が無斷で他人に代筆させて投票したことが認められ、(ハ) 證人佐藤辰治郞の證言と、前記佐藤辰治郞名義で投票がされている事實を綜合すれば、右選擧當時同人は宮城縣牡鹿郡稻井村に居住し、渡波町には住所がなく、從つて、同町においては選擧權がなかつたのに拘らず、本件選擧において投票したことが認められ、(ニ) 證人龜山正の證言によれば、前記龜山長吉は右選擧の當時仙臺市内に居住して居り、渡波町においては選擧權がなかつたことが認められる。而して、この事實と前記龜山長吉名義の投票がされている事實によれば、何人かが當時選擧權のなかつた同人名義で投票したものと認めなければならないから、以上十票はいずれも無効投票であることが明かである。
而して原告津田は、
(一) 右無効投票が何人に對して爲されたかを確定しなければ、右無効投票がどの候補者の得票に影響し、どの當選人の當選の結果に影響するか分らない筈であると主張するけれども、元來右選擧は秘密投票によつて行われるのである。何人と雖も、自己又は他の選擧人の投票した候補者の氏名を陳述する義務はないのであるから、右無効投票と雖も、之が何人に對して爲されたかを明かにすることは選擧の爭訟手續上調査すべきものでないし、又これを明かにしなければ右選擧の結果を判斷できないということもない。
(二) 又、右無効投票は、各當選者及び落選者の得票數から控除して、殘りの數を比較して當選の結果に如何に影響するかを判斷しなければならないというけれども、この方法によつては右無効投票の結果、當選の結果に異動があるかないかを發見することは殆ど不可能であるから、この樣な方法は採用することができない。次に總効票につき各無効投票の數を孰れの投票からも代る代る無効として控除して、當選の結果に異動があるかないかを決定すべきで、こうすれば前記無効投票は原告津田の當選の結果に異動を生じないと主張するけれども、この方法を正確に用いれば、後に認定するように原告津田の當選に影響してくるのである。
よつて前記十票の無効投票を別表を參照しながら各當選者の得票數から控除し、その殘票を順次次點者阿部鶴壽の得票と比較すると、當選人木村喜太郞、藤龜治、津田昊(原告津田)の各得票數は何れも百三票より少數となり、同人等の當選は何れも右無効投票の結果異動を生ずる虞があるものと認めるべきである。
原告津田は、無効投票が有効投票として得票中に計算されたため、當選の結果に異動を及ぼすおそれがあるときは當然選擧の全部又は一部の無効を宣言すべきで、當選の無効を宣言すべきでないと主張するけれども、投票の無効を理由として選擧の結果を爭う訴訟は當選訴訟であつて、選擧の効力を爭う選擧訴訟には當らないものと解すべきであるから、地方自治法第六十七條(町村制第三十二條)の適用はなく、當然に特定の當選人の當選の効力を判斷しなければならないのである。原告津田の右主張も到底採用することができない。
よつて原告津田の請求は之を棄却し、又、原告津田の當選のみならず、前記木村喜太郞、藤龜治の當選も無効とすべきであるから、この趣旨と異る前記裁定中、宮城縣牡鹿郡渡波町選擧管理委員會のした前記異議に對する決定を取消した部分を除き之を取消し、右三名の當選無條を宣言すべきである。よつて訴訟費用の負擔につき民事訴訟法第八十九條、第九十條を適用し、主文の通り判決する。
(谷本 村木 松尾)